新着 野辺 正二 1965年
野辺 正二 1965年
〔製作家情報〕
1935年生まれ。東京の指物職人であった父野辺幾衛がその技術を生かしギターの修理をする事から野辺ギター工房は始まります。1965年に独立し自身の工房をスタート。江戸指物師の流れを汲む家系らしく良質な木材の選定と高い工作技術、意匠のセンスと味わい深い外観の仕上がりなどが特徴です。音色もそのたたずまい同様に渋く滋味深いもので、スペインギターを基本としながらも華やかさとは一線を画した、まさにいぶし銀のような味わいを持ったものとして他にはない個性を持っています。同様にギターを製作した野辺邦治は兄にあたります。生涯現役で良質なギターを製作し続けましたが、2004年に死去。現在は息子の野辺雅史氏が父の工房を引継ぎ、彼の残した工具やストック材を使用してブランドを存続しています。またもう一人の息子野辺成一氏も独立して自身の工房を立ち上げ、クラシックギター製作のほか古楽器の修理やアンティーク家具の販売をおこなうショップを経営しています。
〔楽器情報〕
野辺正二1965年製作の上位モデル。横裏板は上質な中南米ローズウッド仕様。野辺氏が独立して工房をスタートさせた年の作で、すでに彼ならではの個性と完成度とを十全に備えていたことがうかがえる優れた1本になっています。このブランドの特徴としてしばしば語られるいぶし銀のような渋く柔らかい響きというよりもむしろ、スペイン的ともいえる重厚な力強さが魅力となっています。十全な鳴り、表情の変化、タッチへの反応などそれぞれ不足なく、国産ブランドの一級品としての格をすでにしっかりと感じさせる、製作家初期の出色の一本と言えるでしょう。
内部構造はサウンドホール下のハーモニックバーをその真ん中部分で斜めに貫通するもう一本のバー、そしてその下に左右非対称の6本の扇状力木がセンターの1本を境に高音側に2本、低音側に3本配されています。駒下位置にはフランスの名工ロベール・ブーシェの影響を感じさせるトランスヴァースバーが1本、そしてボトム部のハの字型のクロージングバーのない配置となっています。レゾナンスはG#の少し下に設定されています。オリジナルラベルの他、故溝淵浩五郎氏によるこの楽器のファーストオーナーへの為書きラベルが付されています。