新着 リヒャルト・ヤコブ・ワイスガーバー 1943年製
リヒャルト・ヤコブ・ワイスガーバー 1943年製
ネック:
指 板:エボニー
塗 装:ラッカー
糸 巻:ヘフナー
弦 高:1弦 3.0mm 6弦 3.5mm
ギター製作家 カール・アウグスト・ヤコブ(1846~1918)の二男として、古くからの「楽器の街」として知られるドイツ、ザクセン州のマルクノイキルヒェンに生まれる。幼少時はヴァイオリン製作家であった祖父の教えを受け、14歳からツィター製作に従事。後にギター製作に転向。ヴィルヘルム・ヴォイトに6年間師事したあと1905年 28歳の時にまずは父親の工房で個人製作家としてのキャリアを開始、1911年には結婚と同時に自身の工房を設立します。独立当初はマルクノイキルヒェンがあるフォークトラント地方の特徴的な楽器製作システム(主要卸売業者からの発注内容に応じた家内制手工業、ウィーン的作風の楽器、等々)に則して製作をしていましたが、そうした因習的な生産体制に飽き足らず早くから新しいドイツギターのあり方を模索していた彼は、研究のためにドイツ、オーストリア全土を旅して見識を深めます。そして大手業者に依拠した製作を変えて自ら販路を開拓するとともに、彼の家系に古くから伝わる「Weissgerber」というニックネームを屋号としてラベルにも印字し、独立したブランドとしてのアイデンティティを確立してゆきます(※ラベルに製作年と製造番号が記載されるのは1920年代初めから)。
歴史的にも類を見ない多様なモデル数(一つとして同じ仕様のものを作らなかったと言われます)、そしてその一本一本に施された「芸術的な」意匠と精緻な工作等々の特徴は、マルクノイキルヒェン的な伝統に多く立脚していると言えますが、そうした外観的な部分だけでなく、音響に関わる構造的な部分でも実に様々な独自の試みがなされています。何よりも驚くべきは1日16時間、週6日間の製作で総数実に3500本に及ぶギターを作り続けたその異様な生産力と創造力で、しかもそれらが全て、決して「量産」楽器的な妥協を一切感じさせない、極めて美しく高度なクオリティを維持していることでしょう。
彼は同時代のギタリスト達とも積極的にコンタクトを取っていましたが、なかでも1920年代当時マルクノイキルヒェンを訪れてコンサートを行ったエミリオ・プジョール、ルイゼ・ワルカー、そしてなんといってもミゲル・リョベートとアンドレス・セゴビアらが奏でるスペイン製ギターの音色と音響に魅了されます。それがきっかけとなり、それまで自身が製作していたモデルとは異なるコンセプトで、極めて独創的な「スパニッシュギターシリーズ」の製作を開始。トーレスやシンプリシオのギターを理想としてさらなる創造的探求を進めた彼は、やはりこのシリーズでも多様なラインナップを展開しています。使用木材、デザイン、内部構造から全てにおいて1本1本が異なる仕様で製作されたこのシリーズはワイスガーバーのキャリアの中でも白眉のラインナップとされ、現在も高い評価を得ています。
彼は外部の職人を決して雇わず、工房は彼の二人の息子マルティン(1911~1994)とアーノルド(1917~1944)とともに3人で運営されました。
[楽器情報] リヒャルト・ヤコブ・ワイスガーバー 製作 1943年製 C4.6/9 ヴィンテージ良品の入荷です。1920年代半ば以降より製作を開始しているスパニッシュシリーズの系統にあたるといえるモデル。良質な杉材と中南米産ローズウッドが使用されており、ヘッドはシンプリシオを想起させる彫刻が施され、口輪デザインは極めてシンプルな黒いドットをあしらったもの。またあまり装飾的な細工がされることのないネックからヘッド裏にかけても、機能とヴィジュアルが無理なく融合した見事な仕事が施されています。内部構造も独特で、サウンドホール上下に一本ずつのハーモニックバー、扇状力木は表面板センターの部分をちょうどサウンドホールの幅の分だけ空けるようにして、高音側と低音側に寄せるようにしてそれぞれ3本が配され、低音側3本の力木にのみボトム部でクロージングバーが配置されているというもの。レゾナンスはA~A#に設定されています。音色も個性的。同時期にヘルマン・ハウザー1世が同じようにセゴビアに影響を受けてあの有名なセゴビアモデルを製作しますが、透徹とした音色とバランス感のあるハウザー的なドイツらしさと比較すると、むしろ木の生々しい響きが十全に活かされた素朴な音色が魅力的なギターとなっています。
表面板ブリッジ下に割れ補修履歴ありますがその他はわずかに浅いスクラッチあとが見られる程度で全体に年代考慮すると非常に良好な状態。ネック、フレット等の演奏性に関わる部分の状態も問題ありません。糸巻きはオリジナルのH型単式タイプでこちらも機能的に問題ありません。