新着 エルナンデス・イ・アグアド 1962年製
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ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:セラックニス
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 3.1mm/6弦 4.0mm
[製作家情報]
「エルナンデス・イ・アグアド」
サンチャゴ・マヌエル・エルナンデス(1895~1975)、ビクトリアーノ・アグアド・ロドリゲス(1897~1972)の二人による共同ブランドで、エルナンデスが本体の製作、アグアドが塗装とヘッドの細工そして全体の監修をそれぞれ担当。通称「アグアド」と呼ばれ、20世紀後半以降の数多くのクラシックギターブランドの中でも屈指の名品とされています。
エルナンデスはスペイン、トレド近郊の村Valmojadoに生まれ、8歳の時に一家でマドリッドに移住。アグアドはマドリッド生まれ。2人はマドリッドにある「Corredera」というピアノ工房で一緒に働き、良き友人の間柄であったといいます。この工房でエルナンデスは14歳のころから徒弟として働き、その優れた技術と情熱的な仕事ぶりからすぐに主要な工程を任されることになります。アグアドもまたこの工房で腕の良い塗装職人としてその仕上げを任されていたので、二人での製作スタイルのひな形がこの時すでに出来上がっていたと言えます。1941年にこのピアノ工房が閉鎖された後、2人は共同でマドリッドのリベラ・デ・クルティドーレス9番地にピアノと家具の修理工房を開きます。
1945年、プライベート用に製作した2本のギターについて、作曲家であり当時随一の名ギタリストであったレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサに助言を仰ぐ機会を得ます。この名手は二人の才能を高く評価し、ギター製作を勧めるとともに自身が所有していたサントス・エルナンデスのギターを研究のために貸し与えています。さらにはサントスと同じくマヌエル・ラミレス工房出身の製作家で、終戦直後の当時貧窮の中にあったモデスト・ボレゲーロ(1893~1969)に仕事のためのスペースを工房内に貸し与えることになり、そのギター製作の工程をつぶさに観察。これが決定的となり、ギターへの情熱がさらに高まった二人は工房をギター製作に一本化することに決め、1950年より再発進します。デ・ラ・マーサという稀代の名手とマヌエル・ラミレスのメソッドを深く知るボレゲーロ(彼は1952年までアグアドの工房を間借りして製作を続けた後に独立しています)という素晴らしい二人の助言をもとに改良、発展を遂げて世に出されたアグアドのギターは大変な評判となり、一時期70人以上ものウェイティングリストを抱えるほどの人気ブランドになりました。
出荷第一号はNo.100(※1945年に製作した個人用のギターがNo.1)で、1974年の最後の一本となるNo.454まで連続番号が付与されました。1970年前後に出荷されたものの中には同じマドリッドの製作家マルセリーノ・ロペス・ニエト(1931~2018)や、やはりボレゲーロの薫陶を受けたビセンテ・カマチョ(1928~2013)が製作したものも含まれており、これは殺到する注文に応えるため、エルナンデスが当時高く評価していた2人を任命したと伝えられています。
しばしば美しい女性に喩えられる優美なボディライン、シンプルで個性的かつこの上ない威厳を備えたヘッドデザインなどの外観的な特徴もさることながら、やはりこのブランドの最大の特徴はその音色の絶対的ともいえる魅力にあると言えるでしょう。人間の声のような肌理をもち、表情豊かで温かく、時にまるで打楽器のような瞬発性とマッシヴな迫力で湧き出してくる響きと音色は比類がなく、二人だけが持つある種の天才性さえ感じさせます。
このブランドの有名な逸話にも登場するエルナンデスの愛娘のエミリアは1945年にヘスス・ベレサール・ガルシア(1920~1986)と結婚。ベレサールはアグアドの正統的な後継者として、その精神的な面までも受け継ぎ、名品を世に出す存在になります。
アグアドがギター製作を始めるうえでの大きなきっかけとなったデ・ラ・マーサはその後彼らのギターを数本購入し愛用しているほか、ジョン・ウィリアムスやユパンキなどの名手たちが使用しています。
[楽器情報]
エルナンデス・イ・アグアド 1962年製 No.224 ヴィンテージの入荷です。
この名ブランドの、さほどに長くはない歴史の中でもとりわけ人気と評価の高い1960年代初期の作。柾目のブラジリアン・ローズウッドを横裏板として使用し、おなじみのヘッドデザインにアグアドらしい優美さをたたえたボディ、柔らかな気品が漂う見事な一本。
力強く、アグアド独特の包容力ある響き、ジェントルで耳に心地よい独特の肌理をもった音色が素晴らしい。また人間的と言いたくなるほどによく歌い、変化する表情の繊細さも名品ならでは。心の動きとシンクロしながら、同時に楽器のほうからも奏者に対して働きかけをしてくるような真に音楽的な瞬間は他では得られない感覚でしょう。しかしながら同時に(名器の常として)、奏者には然るべきタッチの熟練が求められますが、それが一致した瞬間の充実感はやはり格別なものがあります。
内部構造について、年代的な傾向はありますが、アグアドはほぼ個体ごとに力木配置を変えていました。本作ではサウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバー、ボディ下部は左右対称7本の扇状力木とその先端をボトム部で受け止めるようにハの字型に配された2本のクロージングバー、そしてブリッジの位置には駒板とほぼ同じ大きさのパッチ板が貼られ、扇状力木はその上を通過しています。レゾナンスはGの少し上に設定。
表面板の指板脇、サウンドホール周りを中心に弾き傷など、またブリッジ下部分は弦飛びの痕があります。裏板は演奏時に胸のあたる部分の塗装に摩耗が若干見られ、またネック裏の1~2フレット付近にも塗装の摩耗が生じていますが割れ補修等の大きな修理履歴はなく、60年を経た楽器としてはかなり良好な状態と言えるでしょう。ネックは真っすぐを維持しており、フレットは1~7フレットでやや摩耗していますが現状で演奏性には問題のないレベル。比較的薄めに加工されたDシェイプのネック、弦はやや強めの張り。糸巻はオリジナルのフステロ製を装着しており、現状で機能的な問題はありません。サウンドホールラベル、表面板サウンドホール高音側にサインあり。
丁寧に弾き込まれており、レスポンスにはまだ硬い部分もあり、まだまだ鳴らしていけるポテンシャルを有した一本となっています。スペイン屈指の名ブランドの、状態そして音ともに良質なUsedです。
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