ホセ・ヤコピ  1984年製

ホセ・ヤコピ  1984年

ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:ラッカー
糸 巻:シャーラー
弦 高:1弦3.5mm/6弦4.1mm

[製作家情報]
ホセ・ヤコピ(1916~2006)。スペインのビトリア生まれ。父親のガマリエル・ヤコピの工房に入り、18歳の時に最初のギターを製作しています。1949年には家族でアルゼンチンのブエノス・アイレスにほど近いサン・フェルナンドに移り住んで工房を開き、そこで生涯ギターを作り続けました。最初は父親と同様にアントニオ・デ・トーレスを規範とした伝統的なスペインギターを製作していましたが、移住する直前の1947年ごろから父親と共に発案した、通常とは逆方向に放射状に配置された扇状力木構造を採用するようになり、これがこのブランドの特徴となります。本国アルゼンチンではその需要の増大に対応するために工房品含め年間約300本のギターを出荷していた時期もありますが、最上位モデルはその1割ほどで、良質な材を使用して本人が製作しています。

非常に独特な音響と音色を備えており、中低音から低音にかけての重厚で柔らく、奥行きのある深い響きと引き締まって艶やかな高音との対比とバランスが素晴らしく、ポリフォニックな曲を演奏した時の立体感は他のギターでは味わえない魅力があります。また音色には南米的な澄んだ色気があり、これが古典と現代の両方の雰囲気を併せ持つことから、クラシック奏者からポピュラー音楽までの幅広いユーザーに愛されてきました。マリア・ルイサ・アニードやエドゥアルド・ファルーらが愛用し、また近年ではボサノヴァや南米音楽の愛好家にも絶大な支持を受けています。
現在は息子のフェルナンド・ヤコピが工房を継いでいますが、ファンの間ではやはり1960年代から亡くなる前の1990年代までのJose本人による楽器に人気が集中しています。

[楽器情報]
1984年製、No2121 中古が入荷致しました。当時すでにかなりの出荷本数を誇っていたこのブランドの、いわゆるフラッグシップモデルとも言えるもので、ホセ・ヤコピ本人のサインが記されたラベルが貼られています。非常にふくよかな奥行きを持った中低音~低音の響きが全体を包み込むように鳴り、しかし高音はあくまでもシャープな音像というヤコピならではの独特のバランス感。ふんわりと湿気を含んだような音の雰囲気はいかにも南米的で、どっしりとした低音の感触などもあり、やはりジャズやボサノヴァ、などの音楽との相性の良さがあり、ヴォーカル伴奏としても効果を発揮するかと思います。

内部構造は胴底のフットブロックを起点とするようにして、サウンドホール方向に向かって扇を拡げてゆくように配された左右対称6本の扇状力木で、通常の扇状力木とは開く方向が逆になっているヤコピ特有の構造。センターのブックマッチ部分は力木ではなく数個の小さなパッチ板が貼られており、これもヤコピの常套的な処置。表面板を横切って配置されるバーはサウンドホール上下に一本ずつ、さらにネックヒール部近くに位置にも短いバーが一本設置されています。表面板と横板との接合部分に接着されるペオネス(木製の小型ブロック)は三角形タイプではなく、断面の形がちょうど椅子のような形状になったものを設置。レゾナンスはF#の少し上という、ヤコピとしてはやや低めの設定になっています。

表面板下部のセンターブックマッチ部分に隙間を接着した履歴があります。また指板脇高音側に1か所の割れ補修跡有りますが、適切な処置が施されており使用には全く問題ございません。その他全体にに弾き傷、打痕、また塗装ムラなどもございますが年代相応のレベルと言えます。全体はおそらくラッカーでの再塗装が過去に施されています。ネックは真っすぐを維持しており、フレットは近年に交換履歴があり状態良好、糸巻きはシャーラー製で機能上の問題もなく、演奏性に関わる部分は良好です。ネックはヤコピのものとしてはやや薄めに加工されたDシェイプタイプで、角の取れた形状をしているのと弦高値も適切なのでとても握りやすく感じます。

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