クリストファー・ディーン 1996年製

クリストファー・ディーン 1996年製

ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:セラック
糸 巻:バルジャック
弦 高:1弦 3.2mm/6弦 4.1mm

[製作家情報]
1958年生まれ。イギリス、オックスフォードに工房を構える。10代の頃よりギターを演奏していましたが、17歳の時にプレゼントされたIrving Sloane のギター製作マニュアルを読んだことをきっかけに製作への興味を持ち始めます。1979年には有名なLondon College of Furnitureに入学し3年間楽器製作についての基礎を学びます(同校はゲイリー・サウスウェル、マイケル・ジーらの出身校でもあります)。ここでのカリキュラムにはホセ・ルイス・ロマニリョスやポール・フィッシャーの工房での実地研究も含まれていたことがきっかけになり、卒業後1年間ニュージーランドで家具製作に従事したのちに1982年フィッシャーの工房に職人として入ります。ディーン自身はフィッシャーのことを師として尊敬し実際に多くを学んでゆきましたが、フィッシャーはこの青年の成熟した感性と技術をすぐに見抜き、わずか3か月の「研修期間」のあとすぐに正式な職工としてフィッシャーラベルのギター製作を託すことになります。ここで充実した3年間を過ごした後に独立し自身の工房を設立、現在に至ります。

その作風は師であるフィッシャーや、さらにさかのぼってデヴィッド・ルビオをも想起させる堂々たる外観とたっぷりと濃密な艶を含んだ音色、力強い響きなどが挙げられますが、そうした彼の出自に直接つながるラインとは別にフランスのフレドリッシュ、トーレス、ハウザーからも多くのインスピレーションを得ており、とりわけサントス・エルナンデスの影響を受けています。1929年製のサントスギターを修繕する機会を得た彼は実地にオリジナルの構造を研究し、その後すぐれたサントスモデルを発表。憧れてやまないと公言する伝説的ギタリスト アンドレス・セゴビアへのオマージュさえも含んだすぐれたモデルとして高い評価を得ています。

[楽器情報]
クリストファー・ディーン製作 1996年製 No.226 Usedの入荷です。ハウザーやサントス・エルナンデス等のヒストリカルなモデルでも瞠目すべきギターを世に出している彼ですが、本器は彼のオリジナルモデル。まだ30代の時の作ですが、造作と音響の両方で完成度が高く、また彼自身の個性という点でも既に揺るぎのないアイデンティティが確立されている一本です。

撥弦の瞬間の、指先のわずかな変化にも敏感に反応する、その生々しくも繊細なレスポンスがなんとも素晴らしい。最弱音における表情の機微とニュアンスの表出から、しっかりとしたダイナミックレンジにより最強音までが充実した密度を保っており、タッチにぴったりとフィットするかのような速い反応、そして各弦のバランス等々、まずは機能的な面での演奏性は申し分のないクオリティを有しています。

慎ましく、ごく自然なエコーを伴いながら箱の奥底から素早く音が立ち上がってくるような発音で、いかにも彼らしいほのかに翳のある音色、そのストイックでジェントルな佇まいはやはりとても魅力的。柔らかな粉をほのかにまぶしたような感触の音像ですが透明感があり、凛として力強く、歪みがなく、常に上品で、時に可愛らしい。和音やアルペジオでは音の拡がりが(やたらとエコーがかかるのではなく)美しく、曲に応じて幻想的なニュアンスもしっかりと表出します。

表面板力木配置はサウンドホール上側(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側)にも2本のハーモニックバーが設置されていますが、下側の2本のうちブリッジに近いほうの一本は低音側から高音側に向かって斜めに下がってゆくようにして設置されたバー、ここではハーモニックバーのやや低音寄りの部分を起点として高音側横板に向かって伸びています。ボディ下部は左右対称5本の扇状力木、ボトム部にはそれらの先端を受け止める2本のV字型に配置されたクロージングバー、ブリッジ位置には駒板とほぼ同じ面積でパッチ板が貼ってあるという全体の表面板構造。レゾナンスはG#の少し下に設定されています。

繊細なセラック塗装仕上げで重量も1.49kgと軽く、上記の内部力木なども繊細な加工がされています。表面板全体は弾き傷やスクラッチ跡、一部塗装摩耗などがあります、横裏板は比較的きれいな状態ですが衣服等による摩擦跡が年代相応に見られます。割れ等のの大きな修理履歴はありません。ネックは厳密にはわずかに順反りですが標準設定の範囲内、フレットは1~7フレットでわずかに摩耗ありますが演奏性には影響ありません。ネック形状はやや薄めのDシェイプでフラットな加工。糸巻は出荷時はSloane製が装着されていましたが、Baljak製に交換されています。こちらも現状で機能的な問題はありません。

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