一柳 一雄 2001年製 No.50
一柳 一雄 2001年製 No.50
ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック /横裏板 カシュー
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦 2.7mm/6弦 3.9mm
〔製作家情報〕
1941年生まれ。青年期にいくつかの楽器メーカーや製作者の所で働き、27歳の時独立し自らのラベルでの製作を開始。その後は愛知県名古屋郊外の蟹江に構えた工房で50年余に渡り、マヌエル・ラミレス、ヘルマン・ハウザー、ホセ・ルイス・ロマニリョス等の名器の研究をもとに製作を続けています。伝統的なスパニッシュギターの工法をベースとする作風ですが、ギタリストの求めに応じてモダンタイプ(音量や演奏性を重視したモデル)の製作も行うなど柔軟に対応しています。同じく製作家の一柳邦彦氏はご子息。
〔楽器情報〕
一柳一雄 製作のNo.50 2001年 Usedの入荷です。ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)を使用した最上位モデルNo.80に続くハイスペックモデルで、この価格帯としては非常に充実した仕上がりの一本です。
表面板内部構造はサウンドホール上(ネック側)に横幅いっぱいに貼られた1枚の補強板と1本のハーモニックバー、下側(ブリッジ側)にも1本のハーモニックバーを設置し、この2本のバーはそれぞれ高音側と低音側とに1か所ずつ長さ4センチ高さ5mmほどの開口部が設けられ、それらの開口部を垂直に交わるように(つまり表面板木目と同方向に)通過する形で2本ずつ平行に設置されています。そしてボディ下部(くびれより下の部分)は、左右対称7本の扇状力木に、センターの1本以外の6本の先端をボトム部で受け止めるようにハの字型に設置された2本のクロージングバー、ブリッジ位置には駒板とほぼ同じ範囲に薄いプレート板が貼られているという全体の構造。これらの配置的特徴は若干の工夫が加えられていますが、一柳氏が傾倒する名工の一人ホセ・ルイス・ロマニリョスの代表的な力木配置を直ちに想起させるもので(ロマニリョス著「Making a Spanish Guitar」の中ではPlan1として掲載されている)、トーレス=ハウザー的スタイルをロマニリョスが再構築したものとしていまではなかばスタンダード化している設計の一つ。レゾナンスはGの少し上の設定になっています。
タッチの指先から瞬間的に音が現れるような発音で、丸みのある音像は一つ一つがくっきりと均質に鳴ります。そしてたっぷりとした奥行きが(エコー)があるのですが、発された音に自然に同質化したもので余計な音響成分がなく、実に心地よい奥行きとなって立ち現れてきます。音の終止においてもきりっとした身振りがあり、曲の演奏において旋律にあいまいな部分がなく、自然と引き締まった音構成になってゆく感覚があります。十分なダイナミックレンジがあり、タッチの強弱とのリニアニティが高いので右手の演奏性においてもストレスがなく、発音の速さも相まって演奏には自然なドライブ感が生まれます。どちらかといえばトーレスやロマニリョスよりもハウザー的音響ですが、厳しさよりも柔和さが際立ったキャラクターは一柳氏の嗜好によるものでしょう。氏の2000年以降の作として、とても魅力的な一本となっています。
割れなどの大きな修理履歴はありません。年代相応の弾き傷(特に表面板サウンドホール付近など)や軽いスクラッチ傷などが裏板も含めてありますがいずれも浅いもので外観を損ねるものではありません。表面板はセラック塗装、横裏板はカシュー塗装となっており、横板は部分的に軽微な変色がありますがこちらも外観を損ねるものではなく、また塗装自体も劣化等の問題はないので現状でお使いいただけます。ネック、フレット等も適正値を維持しています。ネック形状はやや薄めでフラットな形状のDシェイプでコンパクトなグリップ感になっています。弦高値は2.7/3.9mm(1弦/6弦 12フレット)、現在装着しているサドルが低音から高音にかけて低くなるように傾斜させたロングサドルとなっており、お好みに応じてサドル位置を調整することで弦高の設定が変えられます。
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