田邊 雅啓 2024年製 ロマニリョスモデル
田邊 雅啓 2024年製 ロマニリョスモデル
ネック:セドロ
指 板:黒檀
塗 装:セラック
糸 巻:スローン
弦 高:1弦 2.7mm/6弦 3.8mm
〔製作家情報〕
1974年群馬県生まれ。幼少の頃より音楽と工作に深い興味を持ち続け、20歳の時にクラシックギターの製作を志します。 法政大学卒業と同時に石井栄に師事して製作技法を学び、同工房にて自作品として140本近くを製作。その後2001年に渡欧して各地の弦楽器工房を訪問すると共に、ホセ・ルイス・ロマニリョスのマスタークラスに参加し、スペインギターの伝統的な製作方法に触れたことで自らの方向性を確信します。帰国後に栃木県足利市に独立して工房を構えますが、マスタークラスで出会った尾野薫にアドバイスを受けながらさらなる製作研究に一年をかけて、2002年にその後の彼のメインモデルの一つとなるロマニリョスモデルを発表します。2004年に再度渡西した折には、同地の名工達の工房を訪ね更に見識を深め、特にマドリッドの不世出の名工アルカンヘル・フェルナンデスからは助言と共にその製作姿勢に多大な影響を受けています。
師の教えを実直に守りひたすらに良い音を求めるその製作態度を貫き、年間わずか5~7本前後と製作本数が限られるため、現在新作が最も待ち望まれる製作家の一人。 どんな細部も揺るがせにしない緻密で繊細な手と、持って生まれたしなやかな感性で製作された彼の楽器は、伝統に深く立脚しながらも新たな音響のニュアンスを感じさせるギターとして現在国内外で高く評価されるに至っています。2018年にはNHKの人気番組で工房での製作風景が放映された他、新聞や海外のギター専門誌からの取材オファーを受けるなどメディアからも注目されており、2020年にはフランスの出版社Camino Verde刊 Orfeo Magazine No.15で彼のインタビューと楽器が紹介されました。
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〔楽器情報〕
田邊雅啓製作 ロマニリョスモデル 2024年最新作の入荷です。
トーレスからアルカンヘルへと至るスペインの名工たちの系譜に常に敬意を払い、研究と挑戦を続けている田邊氏にとって、その伝統の系譜にいながらも同時にモダニストでもあったロマニリョスの存在は(彼が直接指導を受けたということももちろんありますが)一層特別なものであったと想像できます。近年一作ごとにそれぞれのコンセプトにおいて極めて密度の高いモデルを世に出している氏の、静かな迫力に満ちたロマニリョスモデルの新作です。
まず誰もが想像する、コルドバのモスクの柱廊をモチーフとした有名なデザインではなく、ロマニリョス初期の(田邊氏によればオリジナルはエンリケ・ガルシアであるとのこと)デザインを採用したロゼッタ。ある種宗教的な威容さえ感じさせるオリジナルとは異なる静かな、しかし凛とした外観のたたずまいがまずは素晴らしい。そして駒板のタイブロック(弦巻き付け部分)にはロマニリョス本人から田邊氏が譲り受けた矢柄を思わせるデザインのインレイが両側に黒檀を併せて洒脱にあしらわれており、ささやかながらマエストロへの感謝の念が刻印されています。
撥弦の瞬間に、粒のような音像がポンっと素早く跳躍してくるようなロマニリョス独特の反応、そのわずかな反発感と程よい粘りをともなった発音がなんとも心地よい。艶やかで透明な響きとは異なり、渋く、ややマットな質感さえある音はしかしクラシカルな落ち着きと気品、そして必要に応じて(タッチの変化に応じて)十全に湧出する表情のダイナミズムを有しており、このモデルとしては殆ど異色と言ってもよい音色の滋味が本器の大きな魅力となっています。加えて音響は透徹さを増しており、各音は雑味がなく、単旋律では清潔な力強さを、和声的旋律では調和の美しさが自然な佇まいとともに現出し、ほとんど感動的とさえいえるほど。
内部構造はオリジナルの構造にほぼ正確に準拠。サウンドホール上(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側)に1本で計3本のハーモニックバーを設置、それらすべてのバーの高音側と低音側とに1か所ずつ開口部が設けられ、それらの開口部を垂直に交わるように(つまり表面板木目と同方向に)通過する形で高音側2本、低音側2本の力木がボディの肩部分からくびれ部分まで伸びるように平行に設置されています。そしてボディ下部(くびれより下の部分)は、左右対称7本の扇状力木に、センターの1本以外の6本の先端をボトム部で受け止めるちょうどハの字型に設置された2本のクロージングバー、ブリッジ位置には駒板と同じ大きさの薄いプレート板が貼られているという全体の構造。表面板と横板の接合部には大小のペオネス(椅子型と三角形型の木製のブロック)を交互にきれいに設置してあります。これらの配置的特徴はホセ・ルイス・ロマニリョス著「Making a Spanish Guitar」の中ではPlan1として掲載されているものと同じもので、トーレス=ハウザー的スタイルをロマニリョスが再構築したものとしてスタンダード化している設計の一つ。重量は1.58㎏。レゾナンスはF#の少し上の設定になっています。
糸巻はSloane 製 のLeaf 柄を装着。ネックはノーマルな厚みのDシェイプでフラットな形状に加工されています。弦高は出荷時で1弦2.7mm/6弦3.8mmに設定されており、サドルには1.5~2.0mmほどの調整余地があるのでお好みに応じて設定値を変更いただけます。弦の張りは中庸で押さえやすいので、現状でも左手のストレスはあまり感じない弾き心地となっています。ブリッジ弦穴はトリプルホール仕様(通常の巻き方でも使用できます)。
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