中出 敏彦 2019年製
中出 敏彦 2019年
ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板 カシュー /横裏板 カシュー
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦 3.0mm /6弦 4.1mm
〔製作家情報〕
1932年東京生まれ。ジャパンヴィンテージの筆頭格として河野賢と共に名の挙がる中出阪蔵(1906~1993)の次男。父の教えのもと16歳よりヴァイオリンとギターの製作を開始し、5年後にはギター製作に専心するようになります。1960年には自身の独立した工房を開設し、オリジナルラベルでの製作を開始。その後1968年にはスペインに渡り、マドリッドの製作家エルナンデス・イ・アグアドの工房に入門。この名工からの影響が決定的となり、自身のその後の製作哲学を明確に方向づけられることとなります。外観的な意匠や楽器構造、音色的な特徴においてその影響は如実に表れており、そこに氏独自の個性を注ぎ込んだ楽器はその勇壮な鳴りと豊かな表情とで人気を博します。
80歳を越えた後も製作は衰えず、中級者用のすぐれたミドルクラスから、国内製作家としては最高値となる250万を越えるハイスペックモデルまで、一貫して細かな部分まで手の行き届いた高品質を維持して出荷を続けてきた、そのブランドとしての気位の高さはやはり敬服に値するものでしょう。邦人製作家の最長老として、近年は限定的ながらも製作を続けていましたが、豊富なストックを誇っていた木材を全て使い終わったところで製作を引退。スペイン的なニュアンスを感じさせる国内ブランドの代表格としての地位を揺るぎないもにしてきた氏のギターは、近年は父阪蔵氏と並び、海外でも人気の高まっているアイテムとなっています。同じギター製作家(現在は引退)の中出輝明氏は兄、中出幸雄氏は弟、また中出六太郎氏は叔父になります。
〔楽器情報〕
中出敏彦氏製作のMaster60 2019年製Used 状態良好の1本が入荷致しました。
2020年代に入ってすぐに60年に及ぶその充実したキャリアに幕を閉じたこのブランドの、本器は貴重なラストワークのうちの1本になります。その幅広いラインナップ中ではミドルクラスとなるMaster 60ですが、工作精度、音響的完成度、使用材のクオリティ、ブランドイメージを決して裏切らないキャラクターなど全てが揺ぎ無くそして円満に着地しており、その安定した職人技は敬服に値すると言えるでしょう。
しっかりした芯のある単音は適度な奥行き(倍音のふくらみとは異なる、ボディの響き方としての)を伴ってまろやかに発音されます。中低音から低音への自然なふくらみを持った全体の響き。柔和で明るい音色で、よく歌い、必要に応じて十全に力強くそして繊細に鳴るところなどはこのブランドに一貫したキャラクターでしょう。スペイン的要素を氏独自の感性でソフィスティケイトしたようなその着地が素晴らしく自然で、弾いていてとても心地よい一本です。
表面板内部構造はサウンドホール上側(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバー、そのうち下側のほうのバーの中央部分を起点として高音側横板に向かって斜めに伸びてゆくもう一本のバー(トレブルバー)、6本の扇状力木がセンターに配された1本を境として高音側に2本、低音側に3本設置されており、それらの先端をボトム部で受けとめる2本のハの字型クロージングバー、またちょうど駒板の位置には同じ横幅でパッチ板が貼られているという構造で、これは師であるアグアドのギターを踏襲した配置と言えます。レゾナンスはG#の少し下に設定されています。
美品といえる状態で、表面板指板脇とサウンドホール周り、駒板の下の部分にわずかに浅く小さなスクラッチ痕があるのみです。わらなどの大きな修理や部品交換、改造等の履歴もありません。ネック、フレット、糸巻き等の演奏性にかかわる部分も問題ありません。全体はオリジナルのカシュー塗装、製作時の仕上げ工程に由来する細かな摩擦あとが全体に見られますが特に外観を損ねるものではありません。ネックは通常の厚みのDシェイプ加工。ネック裏塗装は摩擦によりややざらついた感触になっています。弦高は4.1/3.0mmの出荷標準値、サドルに2.5~3.0mmの余剰がありますのでさらに低く設定することも可能です。
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