新着 マヌエル・カセレス 2019年製
オリジナルラベル、杉材を表面板に使用したモデルが入荷しました。
ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表面板:セラック 横裏板:ポリウレタン
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦3.5mm/6弦 4.1 mm
〔製作家情報〕
1947年スペイン、バダホス生まれ。1963年にホセ・ラミレス3世の工房に入り、当時の職工長であったパウリーノ・ベルナベのもと研鑽を積みながら、やがて「MC」のスタンプで同ブランドの最上位機種である1Aの製作を任されるようになり、当時の人気スタンプとなります(現在も中古市場では当時のMCスタンプのラミレスは人気のアイテムとなっています)。1978年にラミレス工房を出た後に独立。また同時期より同じマドリッドの名工アルカンヘル・フェルナンデスとの共同作業的な親交が始まります。これがカセレスのギター製作に大きな影響を与えることになり、アルカンヘルが2011年に引退した後、その唯一直系の製作家として、また最もマドリッドらしい作風を継承した製作家として人気を博していましたが、2018年に工房を閉鎖し一旦引退。現在はわずかに受注での製作のみとなっており、新作が極めて貴重なブランドとなっています。
カセレスのギターはオリジナルのラベルとデザインによるものと、アルカンヘル工房品として「Para casa Arcangel Fernandez」のラベルを貼って出荷されているものとがあり、後者は基本的にアルカンヘルの監修による仕様に準拠していますが、オリジナルラベルによるモデルは内部構造からヘッドシェイプ、細部の仕様からラベルデザインに至るまでいくつかのタイプがあり、音色の傾向もそれぞれ異なり、個性的なものになっています。
[楽器情報] マヌエル・カセレス 2019年製作のオリジナルラベルによる1本で。彼としては珍しく杉材を表面板に使用したモデルです。
内部構造はサンドホール上下1本ずつのハーモニックバーと、もう一本のいわゆる「トレブルバー treble bar」と呼ばれるサウンドホールのちょうど真下の位置から(下側ハーモニックバーのちょうど真ん中の位置から)高音側の横板に向かって斜めに配されたバー、扇状力木は計6本がちょうどセンターに配された一本を境にして高音側に2本、低音側に3本、そしてそれらをボトム部で受け止める2本のハの字型に配置されたクロージングバー、ブリッジ位置には駒板よりも少し幅広のプレートが貼り付けられているという全体の構造になっています。
これは彼が職人として働いていたホセ・ラミレス工房のフラッグシップモデルである「1A」の基本構造をほぼ踏襲した形となっており、表面板にやはりラミレスのシンボルともいえる杉材をセレクトしていることからも、当モデルが彼のラミレスへのオマージュ(レプリカ)モデルであることがうかがえます。
ただしカセレスはここで彼独自の工夫を加えており、まず全体は板を薄く加工して塗装も表面板はセラックにより仕上げることでボディの軽量化をはかっています。弦長は658mm(1980年代中頃までのラミレスは664mm)、また横板は二重構造ではなく単板仕様、レゾナンスはF#~Gに設定されています。
彼のオリジナルモデルで聴かれた、重厚でほどよい粘りをもちながら発音される艶やかな響きとは大きく異なり、木を叩くような生々しい木質の響きで、そこに杉/中南米産ローズウッドらしい太さと丸みが付加された各単音は、軽いボディゆえの反応の速さとあいまって非常なインパクトがあります。
製作されてから3年ですが十分に弾き込まれており、そのため特に表面板のサウンドホール付近、ブリッジ周り、指板脇の部分に多くスクラッチ傷や打痕があります。横裏板は比較的綺麗な状態ですが、演奏時の衣服の摩擦あと等が若干見られます。割れなどの修理履歴はありません。ネックはほんのわずかに順反り設定の理想的な状態。フレットはわずかに摩耗見られますが現状で演奏性に影響はありません。ネックは通常の厚みをもったDシェイプ加工で、指板はややラウンド加工が施されてグリップ感が追求されています。
2019年は彼が既にマドリッドで工房としての受注を停止した1年後となり、おそらくはショップまたはカスタマーの注文によりプライヴェートに製作したものと思われます。マドリッド巨匠による、珍しく貴重な1本です。