グレゴリー・バイヤーズ 1998年製 Diamond Trussモデル

グレゴリー・バイヤーズ 1998年製 Diamond Trussモデル

ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:ラッカー
糸 巻:スローン
弦 高:1弦 3.2mm/6弦 4.0mm

[製作家情報]
Gregory Stuart Byers グレゴリー・スチュアート・バイヤーズ。アメリカの製作家。個性的な作家が多いアメリカの中でも最も長いウェイティングリストを抱えていると言われるほどに人気のブランド。若いころは好奇心の赴くままに学び、そして行動していた彼は、気が付くと大学で生態学と進化学の博士号を取得するまでになっていたといいます。その後仕事で訪れたプエルトリコで彼は同地の「有名なブランド」のギターを購入しようとしますが叶わず、仕方なく安物のギターを購入、逆にこれがきっかけになり彼は自身で製作することを思い立ちます。翌年出来上がったそのギターをギタリストのトム・パターソンに見せたところ、その才能を見抜いた彼はバイヤーズに製作を継続するようアドバイス。ちょうどその時(1981年)カナダ、トロントでのギターフェスでホセ・ルイス・ロマニリョスによる一週間にわたる製作コースが開催され、トムの勧めもありバイヤーズはこれに参加。この巨匠との出会いが決定的となり、彼はギター製作の道に進むことを決意します。彼はまた同国の製作家ジョン・ギルバートやトマス・ハンフリーからも大きな影響を受けており、スパニッシュギターの伝統とモダンギターの発想とを彼独自の解釈と綿密な数学的なアプローチとで融合した独自のギターを製作するに到ります。研究と実験から得られたデータをもとにした自身のギターにおける実践は慧眼すべきもので、彼はまたそれを明確に言語化すべく音響についての自ら執筆した論文をAmerican Lutherieに寄稿するなどし、ギター愛好家たちの注目を集めています。ギタリストでは名手デビッド・ラッセルが「モレーノ・トローバ作品集」の録音で使用しており、ファンに鮮烈な印象を残しています。

[楽器情報]
グレゴリー・バイヤーズ 1998年製 ’’Diamond Truss’’モデル 中古が入荷致しました。
伝統的なスパニッシュギターの構造とハンフリーらのモダンギターの発想とを組み合わせながら、さらにそこに大胆な試みを加えしっかりとあるべき音響に着地させた手腕はさすが。彼独自の研究と発想に基づく個性的で完成度の高いモデルとなっています。

レイズドフィンガーボード(12F以降の指板が表面板を傾斜させることで盛り上がったように加工しハイフレットでの演奏性を追及している)、20フレット、サドル上での各弦ごとの音程補正等のモダンギター的な基本仕様をカバーしつつ、内部構造において特に際立った独創性を発揮しています。

特筆すべきはモデル名にもなっている’’Diamond Truss’’構造で、この用語はもともと建築用語で鉄鋼梁を三角形にそしてそれを組み合わせて菱形にしたものを連続させて形成する斜交材システムの一種で、体育館の天井などで私たちが見ることのできるあの構造ですが、バイヤーズはこれを文字通りギター内部に応用しています。

基本となるのは伝統的なスペイン工法で、サウンドホール上側(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側に)1本のハーモニックバーを配し、下側のバーの中央から高音側横板に向かって斜めに降りてゆくように配置されたいわゆるトレブルバーが一本、そして7本の扇状力木とこれらの先端をボトム部で受け止める2本の(ほんの少しアシンメトリな)クロージングバー、ブリッジ位置には駒板とほぼ同じ範囲にパッチ板が貼られているという配置。そしてこれらの力木全体をその上から覆うようにして’’Diamond Truss’’が設置されているのですが、幅約2cm、厚さ1㎝弱の柱が2本ネックヒール部を頂点としてサウンドホール縁をかすめるようにしてボディ下部へ広がるように伸びてゆき、サウンドホール下のハーモニックバーのところでいったん止まります。そしてその同じ場所から今度はボディボトム部のエンドブロックに向かって別の2本が伸びてゆき到達しているのですが、これはまさしくサウンドホール下側のハーモニックバーを共通の底辺としてそれぞれネックヒールブロックとエンドブロックとを頂点とした二つの二等辺三角形が形成され、それらが組み合わさった菱形の柱構造が表面板の上端から下端までをしっかりと支えているという仕組みになっています。これらの「トラス梁」はそれぞれの頂点となるネックヒールとエンドブロック、そしてサウンドホール上下の3本のハーモニックバーに強固に組み込まれており、スペイン工法による表面板下部の振動の効率化と、表面板全体からネックへの振動効率をも同時にあげるという離れ業のようなシステムを構築しています。横裏板は通常の厚みですが、表面板は薄く加工されています。レゾナンスはF#の少し下に設定。

上記の構造的特徴と表面板に杉材を使用したことなども相乗してか、まるでボディ全体が打楽器のような迫力とレスポンスの速さを有しており、まさにモダンギター的な極めて機能的な音響。しかしながら伝統的なギターへの敬意を常に抱いてきた彼らしく、ただオートマティックに鳴るだけの楽器とはせず、タッチと表現性の繊細な一致も同時に達成されている点が特筆されます。デザインの面ではロゼッタとその他のインレイに彼のひそかなトレードマークともいえる小麦の穂をモチーフにした美しいデザインがあしらわれており、外観全体のどこか優婉な雰囲気に寄与しています。

しっかりと弾き込まれているため、表面板を中心に弾き傷や弦とび痕、細かな打痕等(一部部分補修履歴あり)が多く見られます。横裏板は比較的きれいな状態を維持しており、演奏時に胸の当たる部分に摩擦痕が若干見られます。ネックはほんのわずかに順反りですが標準範囲内。フレットと指板は1~5Fで摩耗見られますがこちらも現状で演奏性に問題ございません。ネックはやや薄めのDシェイプ。糸巻きはSloane 製を装着しています。

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