アントニオ・ラジャ・パルド 2011年製 トーレスモデル

アントニオ・ラジャ・パルド 2011年製 トーレスモデル

ネック:セドロ
指 板:黒檀
塗 装:セラックニス
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 3.2mm /6弦 3.8 mm

[製作家情報]                                   
アントニオ・ラジャ・パルド(1950~2022) スペイン、アンダルシア州 ウエルバに生まれる。14歳の時にグラナダに移り、最初は織工として働きますが、当時グラナダでギター製作を志す若者たちにとってメンター的存在だったエドゥアルド・フェレール(1905~1988 ※叔父は無名時代のアンドレス・セゴビアにギターを与え、グラナダ派の祖と言われるベニート・フェレール)に短期間ですが弟子入りし、ギター製作の道に入ります。その後ホセ・ロペス・ベジード(1943~ ※マヌエル・ベジードの弟でエドゥアルド・フェレールの義理の息子でもある)にやはり短期間製作を学んだ後、1973年に自らの工房を開きます。ほとんど独学でギター造りを会得しますが、フェレール以後同地の最大の精神的支柱であり世界的名工のアントニオ・マリン・モンテロ(1933~)からの助言は彼にとってかけがえのないものであったようです。

グラナダ派の友好的なコミュニケーションの中で育まれ、じっくりと時間をかけて熟成されていったかのような彼のギターは、音響、外観、造作全てにおいて円満に現在のグラナダ派のギターを体現しており、耳に素直に馴染んでゆくかのような優しく力強い音色は多くのギターファンに愛されてきました。工房は途中から息子のアントニオ・ラジャ・フェレール(1980~)が加わり、それぞれが自身のラベルで精力的に製作を続けていましたが、パルドは2022年に72歳で惜しまれつつこの世を去ります。

[楽器情報]                                    
アントニオ・ラジャ・パルド 2011年製作のトーレスモデル Usedの入荷です。
このブランドとしては珍しい横裏板ウォールナット仕様の一本です。ラジャ・パルドのギターといえば、柔らかく角の取れた、木質の素朴な味わいとしっかりと歌う音色が魅力ですが、そういった音響特性とは異なるウォールナット材を使用することで、おそらくはパルド自身も意図しなかったような新たな魅力が生まれています。この材特有の硬質な音と、彼の楽器が持つまろやかな感触とが実にうまくブレンドされ、耳に冴える艶と心地よい丸みを帯びたなんとも魅力的な音像となっています。その凛とした感触はいかにもクラシカルであると同時にチャーミングでさえあり、自然で上品な響きが素晴らしい。そしてスペインギターならではの高音の歌、中声部、バスとしてのそれぞれのパースペクティブをもった音響と統一感もしっかりと備わっており、まるでバロック室内楽的な雰囲気さえ感じさせるものとなっています。モデルとしてはトーレスですがやはりこれは現代のグラナダ派の特徴を十全に備えたもので、必要に応じて表出する勇壮さが上記のようなキャラクターとのコントラストを生み、表現の豊かさへとつながっています。

表面板内部構造はサウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に一本ずつのハーモニックバー、ネック脚とサウンドホールの間に補強パッチ板、サウンドホールを楕円型に囲むようにして補強板がめぐらされ、表面板下部は計6本の扇状力木、駒板の位置には補強パッチ板が貼られています。6本の扇状力木はセンターに配された一本を境にして低音側に3本、高音側に2本、間隔は均等ではなく高音側の力木はお互いにやや広めの距離をおいて設置されており、さらには駒板位置に貼られた補強板も厳密には駒板よりもやや高音側に寄った位置で接着されており、ぜんたいはアシンメトリは配置構造となっています。これは標準的なトーレスの構造とは異なり(もちろん基本的にはそれに準拠するものではあるのですが)、パルドの独創が具現化したものとなっています。レゾナンスはG~G♯に設定されています。

割れなどの大きな修理履歴はありません。表面板全体に細かな弾き傷やブリッジ下に弦とびあとなどがありますがいずれも軽微なもので外観を損ねる程ではありません。横裏板は4枚の継ぎ合わせとなっており、継部分にやや粗さはあるものの、セラックの塗装はとてもきれいな状態を維持しています。ウォールナット特有の野趣溢れるうねるような木目が印象的で、中央のバール(瘤)の部分が木目に沿って波打ちを生じていますが、内部の柱の接着状態含め現状での問題はなく、そのままお使いいただけます。ネックはほぼ真っすぐを維持しており、フレットは1~5フレットでやや摩耗ありますが演奏性に問題のないレベル。ネック形状は薄目にフラットに加工されたDシェイプでコンパクトな握り心地。弦の張りが柔らかめなのでとても弾きやすく感じます。弦高値は3.2/3.8㎜(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰が1.5~2.0㎜ありますのでお好みに応じてさらに低く設定することも可能です。糸巻はスペインのブランド フステーロを装着、こちらも機能的に良好です。

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