コンデ・エルマノス 1999年製 A-26 グラヴィーナ工房

コンデ・エルマノス 1999年製 A-26 グラヴィーナ工房

ネック:セドロ
指 板:黒檀
塗 装:ラッカー
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦 2.4mm/6弦 3.0mm

〔製作家情報〕
数多いスペインのフラメンコギターブランドの中でも、屈指の定番とされるコンデ・エルマノス。ブランドの始まりはマドリッドの伝説的なマヌエル・ラミレス(1864~1916)工房で、サントス・エルナンデス(1874~1943)と共に職人として働いていたドミンゴ・エステソ(1882~1937)が、1919年に同じマドリッドのグラヴィーナに工房を開くところまで遡ります。彼の教えを直接受けた甥のファウスティーノ・コンデ(1913~1988)がその弟達マリアーノ(1916~1989)とフリオ(1918~1995)とともにエステソの工房スタッフに加わり、エステソ亡きあとも「Viuda y Sobrinos de Domingo Esteso」(エステソ未亡人とその甥達による)というラベルでこのブランドを継続してゆきます。1959年にエステソの妻(※Nicolasa Salamanca エステソギターの塗装を担当していた)が亡くなるとラベルを「Sobrinos de Domingo Esteso/Conde Hermanos」に変更し、この時からコンデ・エルマノスの名前がブランド名として使われ始めます。

1960年代に入るとそれまでエステソを踏襲していたモデルを全てデザインから内部構造に至るまでオリジナルのものに一新し、半月型にカットした有名な Media Luna ヘッドシェイプもこのころからハイエンドモデルの符牒として採用され、この時期世界的に高まる需要もあり飛躍的に名声とシェアを広げてゆきます。

1980年にはマリアーノがマドリッドのフェリーぺに工房を立ち上げ、彼の息子たち(フェリーぺ1世とマリアーノ2世の兄弟)とともに製作。グラヴィーナ工房と連携して製作していましたが、1988年にファウスティーノが亡くなったのを機にフェリーぺ工房は独自の操業を開始します。しかし翌年の1989年に後を追うようにマリアーノ1世もこの世を去り、2人の息子たちがフェリーぺ工房を継承します。ここからフェリーぺ工房は3つのコンデ工房の中でも特に時代のニーズに柔軟な対応を見せ、安定した商業ベースを維持するようになります。

そして2010年にはフェリーぺ1世はFelipe Conde、マリアーノ2世はMariano Conde としてそれぞれの独立したブランドとして工房を立ち上げ、それまでのコンデ・エルマノスの伝統を継承しながらもそれぞれの個性を濃密に注ぎ込んだ良品を現在も製作しています。

グラヴィーナ工房はファウスティーノ亡き後は彼の未亡人が2000年代まで工房を継続させていましたが現在は閉鎖しています。フリオは1950年代にアトーチャに設立されたコンデ・エルマノス工房を運営し、1995年に亡くなった後は娘と孫娘が経営を引き継いで現在もConde Hermanos ブランドとして安定した生産を維持しています。

コンデ・エルマノスギターは名手パコ・デ・ルシアが愛奏していたことをはじめとし、まさに名だたるフラメンコギタリストによって使用され、フラメンコギターファンには現在も欠かすことのできないマストアイテムとなっています。

〔楽器情報〕
コンデ・エルマノス グラヴィーナ工房 1995年製Used の入荷です。横裏板にシープレス材を使用したいわゆるフラメンコ ブランカ(白)モデル。ラベルに特にモデル名は記されていませんが、フラッグシップモデルの符牒たる半月型に刳り貫いたヘッドシェイプ、その他全体の仕様からA-26に相当するモデルと言えます。

表面板内部構造はサウンドホール上側(ネック側)に1本のハーモニックバーと1枚の補強プレート、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバー、同じくホールの左右(高音側と低音側)にも一枚ずつの補強プレート、ほぼ左右対称7本の扇状力木とそれらの先端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された2本のクロージングバー、そのV字の結合部分とエンドブロックとの間に小さなプレートが一枚貼られているという全体の設計。7本の扇状力木はほぼ均等の角度分配がされているのですが高音側一番端から2番目の一本だけがやや高音側に寄った位置に設置されています。その他全体の構造は極めてオーソドックスな設計で、あえて言えばコンデブランドの祖たるドミンゴ・エステソの定番的配置を想起させなくもない。ボディ部分は軽く作られており(その分ネックがやや重く感じられてしまうのですが)、ラッカー塗装を施した楽器としては、そしてコンデブランドの楽器としても重量を抑えた仕様(1.46㎏)、それによりレゾナンスはDの少し上というかなり低い位置まで下げられており、これがこの楽器の独特の重心設定につながっています。

このブランドの、さらに言えば最後の充実期といえるグラヴィーナ工房の品質を感じ取れる1本です。低い重心設定による魅力的な低音の響きから全ての音が有機的に繋がってゆく自然な音響バランスが形成されており、しかも音色は豊かに変化し、発音と終止、スラーやスタッカ―ト等の音楽的身振りにおける上品さを伴った鋭さも見事。その優れたバランスの中で、高音、中低音、低音がそれぞれのアイデンティティをしっかりと持って響く様子もまた音楽的。加えてタッチと完全にシンクロするかのような反応が心地よく、瞬間的に洗練された音像が立ち上がってくるので、弾くだけでドライブ感が生まれます。細部の造りなどやや粗さが目立つ部分がこの時期既に見られ始めており、木材の質、全体の仕上がりも決して精度の高いものとは言えませんが、音における機能性と表現力の高さはスペイン屈指のブランドの名に恥じぬものがあります。

全体は鮮やかなオレンジ色の着色が施されたラッカー塗装。ネック形状はDシェイプであまり薄すぎずフラットな加工。ネックは真っ直ぐを維持しており、フレットはおそらく過去に一度交換された履歴があり、現状でほぼ正常値を維持しています。割れ等の修理履歴はありませんが十分に弾きこまれているため全体に年代相応の弾き傷、打痕、衣服の摩擦跡等あります。また裏板の縁に沿ってやや粗めに塗装修正を施したような跡がありますが、外観を著しく損なうものではありません。糸巻はGotoh製を装着しています。弦長は660mm。弦高値は2.4/3.0mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は0.5~1.0mm。

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