ヘルマン・ハウザー2世 1963年製

ヘルマン・ハウザー2世 1963年製

ネック:マホガニー
指 板:黒檀
塗 装:ラッカー
糸 巻:Landstorfer
弦 高:1弦 3.3mm /6弦 4.4mm

〔製作家情報〕
ヘルマン・ハウザー2世(1911~1988)
ハウザーギターは疑いなく20世紀ドイツ最高のギターブランドであり、現在も4代目がその伝統を継承し100年以上にわたって一子相伝で製作を続けている老舗です。ヘルマン・ハウザーI世(1884-1952)が、ミゲル・リョベートが所有していたアントニオ・トーレスとアンドレス・セゴビア所有のマヌエル・ラミレスをベースにして自身のギターを改良し、後にセゴビアモデルと呼ばれることになる「究極の」名モデルを製作した事は良く知られています。それはトーレスがギターの改革を行って以来最大のギター製作史における事件となり、その後のギター演奏と製作との両方に大きな影響を与えることになります。1世の息子ハウザー2世はドイツ屈指の弦楽器製作都市として知られるミッテンヴァルトで4年間ヴァイオリン製作学校で学んだ後、1930年より父の工房で働き始めます。彼ら親子はほぼ共同作業でギターを製作していましたが、ラベルはハウザー1世として出荷されています。1世が亡くなる1952年、彼は正式にこのブランドを受け継ぎ、彼自身のラベルによる最初のラベル(No.500)を製作。以来1983年に引退するまで極めて旺盛な活動をし、500本以上のギターを出荷しています。

ハウザー2世もまた父親同様に名手たち(セゴビア、ジュリアン・ブリーム、ペペ・ロメロ等)との交流から自身の製作哲学を熟成させていったところがあり、また彼自身の資質であろうドイツ的な音響指向をより明確化することで、1世とはまた異なるニュアンスを持つ名品を数多く世に出しました。有名なところではなんといってもブリームが愛用した1958年そして1960年のギターですが、その音響は1世以上に透徹さを極め、すべての単音の完璧なバランスの中にクラシカルな気品を纏わせたもので、ストイックさと抒情とを併せもった唯一無二のギターとなっています。

1970年代以降の彼は特にその独創性において注目されるべきペペ・ロメロモデルや、おそらくは急速に拡大した需要への柔軟な姿勢としてそれまでには採用していなかった仕様での製作も多く手がけるようになりますが、やはり完成度の高さの点では1世より引き継いだ「セゴビア」モデルが抜きんでています。その後1980年代からモダンギターの潮流が新たなスタンダードと目されていく中でも、ハウザーギターは究極のモデルとしての価値を全く減ずることなく、現在においてもマーケットでは最高値で取引されるブランドの一つとなっています。

1974年からは息子のハウザー3世(1958~)が工房に加わりおよそ10年間製作をともにします。3世もまた2世のエッセンスに独自の嗜好を加味しながら、ブランドの名に恥じぬ極めて高度な完成度を有したモデルを製作し続けています。

[楽器情報]
ヘルマン・ハウザー2世製作 セゴビアモデル 1963年製 No.741 ヴインテージの入荷です。
ハウザー2世絶頂期の作であり、ドイツにおけるクラシックギター製作の指標となったブランドの特性を最も如実に示す一本です。

父ハウザー1世のスペイン的な志向から漸進的にドイツ的音響をミックスさせていったともいえる2世のキャリアにおいて、そのスペイン/ドイツ的融合の頂点を1958年から1960年(有名なジュリアン・ブリーム所有のハウザー)とするなら、そこから彼自身の生来の特性的なドイツ的感性をより強めていった最初の時期ともいえるのが1960年代の初期であり、本作1963年はその彼の嗜好と芸術的完成度が妥協のない高みに達した、まさに比類のない至高の一本となっています。

ボディのテンプレートは1世のセゴビアモデルをほぼ完全に踏襲し、トーレスに由来するヘッドシェイプやヘリンボーンを印象的にあしらったロゼッタ、ブランドカラーの象徴ともなった緑の象嵌など永遠のスタンダードといえるデザインはもちろんここでも受け継がれています。

音響はまさしくハウザーにしか成しえない透徹の極み。一切の妥協なく、非常に硬質で強い粘りを伴った発音と極めて高密度の音像。ストイックだがしかしたっぷりと艶を湛えた音はいかにもドイツ的な気品と力強さで、その繊細な音色変化の中に実に豊かなニュアンスを内包しているところなどもいかにもクラシカルで魅力的。そして全体のバランスの完成度も比類がなく、低音から高音へときれいに一つの線を形作るような整った単音が素晴らしい。ロマンティックな曲では十分に歌い、バロックなどの多声音楽ではその対位法を明確にし、現代音楽では澄明な音響を、それぞれ最高度に達成しており、数々の名手たちの演奏を彩った名器の特性をここに感じ取ることができます。

表面板力木配置は1世の1937年製セゴビアモデルに準拠しながら2世の工夫が加えられたもの。サウンドホール上側に2本、下側に1本のハーモニックバー(このうち下側のバーは中央のちょうどサウンドホール真下のところでゆるやかにわずかに屈折して、大きく開いたV字型になっています)、左右対称7本の扇状力木にこれらの先端をボトム部で受け止める2本のV字型のクロージングバー、駒板位置にはほぼ同じ範囲に薄い補強プレートが貼ってあり、またサウンドホール両脇にも1枚ずつの補強プレートが貼り付けられているという全体の配置。それぞれのバーは裏板も含めて薄くて高さがありその頂点は尖った加工となっている2世特有の形状となっています。レゾナンスはG~G#に設定されています。

割れ修理履歴のない、このブランドのヴィンテージモデルとしては大変に良好なコンディションで塗装のラッカーには経年による全体のウェザーチェックや部分的な白濁が見られるものの、全体的に年代考慮するとかなり良好な状態を維持しています。ネック、フレット等演奏性に関わる部分も良好です。糸巻はオリジナルのLandsdorfer製を装着。重量は1.54㎏。表面板内側にサインあり。

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