トーマス・ハンフリー 1993年製 ミレニアムモデル

トーマス・ハンフリー 1993年製 ミレニアムモデル

ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:セラック
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦 3.2mm/6弦 4.2mm

[製作家情報]
トーマス・ハンフリー(1948~2008)アメリカ、ミネソタ州生まれ。かなり若い時からチェロを本格的に学んでおり、本人曰くこれがギター製作の大きなバックグラウンドになったとのこと。1970年にニューヨークを訪れ、同地にギターショップを構えていたマイケル・グリアンに弟子入りし、働きながら11年にわたり製作を学びます。1981年にロサンジェルスに訪れた際に彼はあの名手アンドレス・セゴビアの主宰するマスタークラスの洗礼を受け、さらには同地の著名なコレクターの所有するスペイン製の多くの名器に触れたことで彼は自身のたどるべき道を確信します。直後の1982年には一年をかけてスパニッシュギターの研究に費やし伝統的な工法を完全に熟知すると同時に、あの真に革新的なMillenniumモデル製作の実践も始め、1985年には試作第一号を製作します。Millenniumモデルの最大の特徴は表面板の指板横のエリアをネックヒールに向かって薄くなるように傾斜させることで必然的に12フレット以降の指板が盛り上がったような設定になり(Raised fingerboard)、ハイフレットでの演奏性を向上させるとともに表面板の弦振動効率を上げ、高い演奏性と音量の増大というクラシックギターの「弱点」を克服するとともに、その「ハープのような」ヴィジュアルによる特異なルックスがあげられます。そしてそのギター製作における歴史的な意味は大きく、その後多くのフォロワーを生み出すとともに、エリオット・フィスクやアサドなどヴィルトゥオーゾらの高度な要求にも完璧に応えうるモデルとして、モダンギターの一つのスタンダードとなりました。

同時代のアメリカを代表する製作家であるロバート・ラック、ジョン・ギルバートらと並ぶ、アメリカ発モダンギター最大の巨匠の一人とされましたが、2008年4月に急逝。

[楽器情報]
トーマス・ハンフリー 1993年製作のMillennium ミレニアムモデル Used です(Pat No.4873909)。ハンフリーの代表作であり、G.スモールマンのLattice構造、M.Damann のダブルトップ構造と並びモダンギターのスタンダードを創出した稀有なモデル、比較的初期の極めて完成度の高い一本。

その「ハープのような」特徴的ルックス(12フレットで指板の表面板からの高さが2.7cm、20Fでも1.5cm)がクローズアップされがちですが、ハンフリーの創造性はむしろその音響にあるといえるでしょう。表面板のアッパー部分を大胆に傾斜させて薄くしたボディは逆にその容積の縮小を活かして発音の反応性を高めると同時に、内部構造ではトーレス以前のスパニッシュスタイルを想起させるシンプルな扇状力木配置を採用することで音量を増大、それらを無理なく融合させてしまった設計センスと革新性はやはり素晴らしい。機能性とデザイン性とが極点に達したところで生まれたモデルとして、いまなお新しさに満ちた一本です。

音色は意外にも温かく優しく、耳に心地よい響き。発音ではタッチとのシンクロ率の高さはモダンギターならではで、瞬間的に充実した音像が発され、急な終止やスフォルツァンドの十全な表出まで音響的機能性も申し分ありません。

その後も様々な配置設定を試みてきた彼ですが、ここでの内部構造はサウンドホール上側に2本のハ-モニックバーを交差させるXブレーシング配置に、下側は1本のハーモニックバー、そして扇状力木は3本がほぼサウンドホールの直径に収まるように中央に寄せて配置されており、それらの先端をボトム部で受け止めるクロージングバーは3本(通常は2本)を設置するという全体の配置。これは先述のようにアントニオ・デ・トーレス以前の19世紀初頭のスパニッシュスタイルを想起させるところがあり、特に3本と少ない扇状力木を表面板中央に寄せ合って配置する設計にそれが見て取れます。レゾナンスはGの少し上に設定されています。

柾目の見事なハカランダを使用。全面セラック塗装仕上げで年代相応のキズはありますが割れ等の修理履歴はなく良好な状態です。表面板は指板脇やサウンドホール周り、ブリッジ下などにやや傷は目立ちますがこちらも年代相応のレベル。糸巻はGotoh 製510シリーズを装着(ハンフリーは初期においてGotoh製を好んで使用していました)。20フレット仕様。重量は1.64㎏。

 

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